今年も半分以上が過ぎたが、除夜の鐘が鳴る頃、こうして大阪でスパイスカレーの店を探して梅田や心斎橋を歩いているなど、想像の端にも出てこなかった。
大阪に縁もゆかりもない私は、ひと通り情報誌を読み漁り、まずは美味い飯で腹を満たし、地酒を呑んで、東京から出張でやってくるなじみの出版社の方に誘われるのを待っている。
通天閣や大阪城、「太陽の塔」を直に見て、その大きさや意外なほどの小ささを考えながら、通りの店のなんだか怪しいガチャガチャを覗き込んだりしている。ガチャガチャ。
今年の3月から「トーハク」で東寺の特別展が開催されるのを昨年より楽しみにしていたが、結局行けなかった。
さすがに赴任早々東京へ行く時間もつくれず、考えてみたら東寺は京都にあるわけだし、特別展など見ずとも直接東寺へ行ってしまえばいいわけだし。
そう言いながらまだ京都も奈良も湖北も行っていない私は、取り急ぎ、山と渓谷社刊の『仏像』を眺めながら、ちびちびとあっさり風味のたくあんをかじる。バリボリ。
随分前に買った記憶。当時いた店で人文関係の担当をしていたこともあり、棚にも必ず1冊置いていた。値段もそれなりにするので、頻繁に売れるとは言いづらく、分厚さが輪をかけて買いづらさを後押しする。ただし、一旦手に取って中を開いてみてごらん。まさに深淵。
京都・奈良を中心とした、全国の117寺、約600体の仏像の、これでもかという程の迫力と美しさと妖艶さと煌びやかさと慎ましさが…ひしめき合っている。
個人的ベストヒーロー(?)は、観心寺の国宝「本尊如意輪観音菩薩」像。日本密教史上最高傑作とも言われる秘仏だが、年に一回、4月17日・18日のみ御開帳されるそうだ。
これを書いている今、それに気づいて、来年までまだ遠い事実に愕然としている。ガクブル。
もう御一人、六波羅蜜寺の重文「空也上人立像」も外せない。
念仏を唱える口から六体の阿弥陀如来が具現化するなんて、なんて能力! しかも「踊念仏」という秘儀もお持ちであることから、おそらく特質系の可能性が高い。
この本には、こういった有名どころから一般には馴染みのないものまで、美麗なカラー写真で目いっぱいこちらを圧倒してくる。
実際に見に行くことが最良ではあるかもしれないが、遠方であったり時間的・金銭的制約もある。そこをぐっと身近なものにしてくれるこの1冊は、最早一家に1冊レベルで蔵書すべきと、隣の人が言っていたような。ウツラウツラ。
正直、大阪への赴任に関して不安がなかったわけではない。
しかしそうでもなければ、行ってみたいと思っていたこれらの寺院や仏像見学の容易なハシゴなど、到底考えられなかったであろう。休日の度、今度はこっちへ、次はあそこへと、随分と贅沢なものだ。
しかしながらその心的土壌を作ったのは、紛れもなくこの本と出会ったからだ。
東京でいつか行きたいと願いながら、たまに開いては一人にやつく日々があったからこそ。もちろんすぐに行ける距離にいる今も、私のそばにずっと一緒に居てくれる、重き分厚き相棒である。ズシズシ。
仏像
関信子 山崎隆之 小川光三
山と渓谷社
本体6,400円
小熊基郎
リブロ 新大阪店 店長