私は未来を知っている。「明日」はきっと来る。暗い夜が明けることを知っている。
だから生きて。生きのびて。何度も何度も願いながらページをめくった。
歴史的な事実はもちろん知っていて、あの時代に数えきれないほどたくさんの人が犠牲になったこと、そして奇跡的に生きのびた人たちがいたことも知っていた。
でも、あの悲惨なホロコーストが吹き荒れた時代に、あのアウシュヴィッツで愛を育んだ人たちがいたなんて。驚きの物語に、私はすぐ夢中になった。
誰かの腕に番号を彫る。ひどい仕事だ。そしてそのひどい仕事の最中に恋に落ちるラリ。恋をするってすごく前向きな気持ちだと思った。未来を信じて、その人と愛し合えることをあきらめないことだから。そんなラリの強さを、未来を信じられないギタは名字や出身地ですら教えない。ギタもラリに恋をするのに。あの甘いチョコレートを二人で食べたのに。(ラリは本当にロマンチックな人で、恋人として最高なのでは…)
とはいえ、もう!離れてしまったらどうやって探すのよ!と思ったけど、「探す」ことすらギタにはありえない未来なのだ。深い深い絶望…
たくさんの仲間たちが二人を通り過ぎて、心を寄せ合い、力を合わせていく。
どうなるの?どうなるの?ページをめくる手は止められなかった。
早く、早く、1945年に!あの戦争が終わった年に!
食べるものは「食事」とは呼べないものだけ、とにかく人が死んでいく、生き残れるかどうかは運、という認識でしかなかった収容所内は意外と人の意思が働いていて(もちろん運もある)、みんな必死だった。
生きのびるために仲間を傷つける仕事についてしまった人、自分を犠牲にして誰かを生かした人、身も心も文字通り擦り減らす状況でも生きることを諦めなかった人…誰にも責めることなんてできない。きっと忘れることはできないだろうけど、その苦痛が少しでもやわらいでほしい。生きのびた奇跡を大切にしてほしい。どうか心やすらかにと願わずにいられない。
この物語を語ることを決めたラリになによりもまず感謝を。今ごろギタと二人で微笑んでいるのを想像しています。ラリの、ここに登場するみんなの重荷を引き受けたヘザー・モリスの素晴らしい仕事に敬意を表します。そして邦訳に取り組んでくださった金原瑞人さん、笹山裕子さんありがとうございました。出版を決めた双葉社さんありがとうございました。
私に一足早く読む機会をくださった直井さん、ありがとうございました。
ずっとずっと読み継がれる物語になることを心から願っています。
アウシュヴィッツのタトゥー係
ヘザー・モリス 金原瑞人 笹山裕子
双葉社
本体1,700円
福川キャサリン
リブロ 福岡天神店